内心ではひどく落ち着かない気分で、体だけがしっかりと動いていた。

ダイニングテーブルに置かれたプレートを一枚ずつ重ねて、声をかけられる前にキッチンへと引っ込んでしまった。

家庭に逃げ場なんてない。


声に出したことの全てが事実なのに、今更言わなければよかったと思いなおして、プレートを丁寧にシンクに置いた。

なんだか別れたいと言っているみたいになってしまった。スポンジに洗剤をつけて、丁寧に洗っていく。


割ってしまわないように、丁寧に、きれいに、とずっと頭の中で考え続けて、息が止まってしまった。


「……ゆずは」


やさしい熱が、背中に触れている。

ぴくりと上ずった肩を諫めるように腕を回されて、指先が固まってしまった。

やさしい匂いがする。

思わず振り返って抱き着きたくなってしまうような香りで、胸がしびれてくる。


「ゆずは」


二度呼ばれて、声を返す暇もなく右肩に熱が落ちた。

こんなにもあつくるしいのに、どうして近づいてきていることに気づかなかったのだろうか。慰めるような唇に、眩暈を起こしそうになってしまった。


「りょう、がさん?」

「ん、」


鼻から抜けるようなあまい声で、やさしく誘われているような、おかしな気分が胸に響いた。