私の答えで、寝室へ行きかけていた足が止まった。ふ、と笑った人が「じゃあ、一緒に食べようか」と提案して、もう一度顔を寄せてくる。


「きす、しすぎです」

「2人だけだから、許してください」

「もう」


いつも遼雅さんのペースだ。胸がくるくるして仕方がない。

困った声をあげたら、遼雅さんはまた、どこまでもあまったるい瞳で私を見つめて「かわいい奥さんに愛想尽かされたくないから、ちゃんと着替えてきます」とおちゃらけて笑っていた。

すこしも怒れないから、やっぱり遼雅さんは危険なのだ。


寝室に吸い込まれていく様を見つめて、リビングのテーブルの上に置いていた携帯を手に取った。

メッセージと着信が一件。どちらも遼雅さんのものだ。一目で心配させてしまったことがわかる。

申し訳ないことをしてしまった。あれだけ忙しい専務の負担になるようなことだけは避けようと思っているのだけれど。


起こってしまったことは仕方がない。気持ちを切り替えるように足を踏み出して、キッチンへと逆戻りした。

週の始まりは、なるべく遼雅さんの好きなもの中心の献立にしようと思い込んでいる。