彼はベッドに温もりを残したまま、消えてしまった。

「あーあ……」

 フルネームも連絡先も聞いてない。
 日本語もたどたどしかったから、旅行者かな。
 終わってしまってから『彼となにか始まるのかもしれない』と、期待していたことに気づく。

「お馬鹿だな、私」

 愛してるなんて、ピロートークなのにね。

 熱に浮かされてた昨日はわからなかったけれど、室内はゴージャスだった。
 このホテルはお父様の定宿だけど。……もしかしてここ、一室しかないというエクセレント・スイート?

「なんて部屋を取ってるのよ……!」
 
 一泊、 いくらするの?
 
 彼は弾きながら一夜の宿代を払ってくれる相手を探してのかな。
 私は披露宴に参列したままだったから、ドレスを着ていた。
 聴いてる人たちもそれなりにお洒落してたけど、私だけが異質だった。

「……だから、『ATM(カモ)』にされちゃったのかぁ……」

 納得してしまった。
 
「うーん……。私のクレジットカードの限度額で間に合うかしら。困ったなぁー!」
 
 みじめすぎて、無理矢理明るい声をだす。 
 最悪、お父様から持たされている家族カードで払うしかない。明細からナニをしたのかがバレる。

「ううう、それだけは嫌だ……」

 分割払いが効くか、聞いてみよう。