『日本ではバレンタインデーは女性から愛の告白をされる日なんだ』
穣から聞いたとき、日本はなんていい国なのだろうとネイトは思った。
バレンタインデーの数日前。
日本時間金曜日の19時に、多賀見製薬本社の駐車場にリムジンを止めた。
花束とジュエリー、ドレスを贈り、埠頭に停めていた船でクルーズディナー。
土曜日は二人、ベッドの中で情熱的に過ごした。
翌日。
穣の言葉通り、玲奈からチョコレートとベネチアングラスをあしらったカフスリングを貰った。
ヴューラー家の指輪を嵌めるとき以外、滅多に言葉に出してくれない玲奈が、この日ばかりは『ネイト、大好き。……愛してる』とはじらいながら告白してくれた。
おまけに。
『お揃いなの』
彼女の胸元に光ったベネチアングラスの輝きを見て、ベッドに押し倒した自分は悪くないと思う。
さらには。
『日本ではバレンタインデーの返礼として3月14日にホワイトデーという名の恋人達の日が設けられている』と穣から聞いた。
「日本は素晴らしい!」
ネイトは感動した。
おおっぴらに愛をささやける日が他にもあるなら、利用しなければならない。
プレゼントを贈るたび、『贅沢しちゃだめ!』と怒るフリをしているが、本当は玲奈がリボンやフリルにレースや花が好きなことを知っている。
ネイトは計画を立てた。
金曜日、リムジンに乗り込んだ玲奈は喜びに輝いていた。
「ただいま、僕の愛」
「ネイト、お帰りなさい」
彼の国籍はアメリカだが、ホームは玲奈のいる場所だ。
抱き合い、キスを互いに贈り合う。
「ネイト、道が違わない?」
玲奈が不思議そうに言う。
「内緒」
悪戯を企んでいるようなネイトの表情に、玲奈は黙った。
到着する一分前、ネイトは玲奈に目を閉じるよう指示した。
素直に目を閉じてくれた彼女を、横抱きにする。
車から降りて、ネイトはもういいよと言った。
玲奈が目をあけ、途端息を呑む。
ヨーロッパの古城のような建物が二人の前にそびえたっていた。
ネイトはそのまま玲奈をとある部屋に連れていく。
玲奈がアンティークの家具に目を白黒させていると、ネイトと入れ違いに古めかしい服装のメイド達がやってきた。
着替えさせられ、髪を言われた。
ドアをあけて、お互いに目をみはる。
玲奈は水色のイブニング・ドレス。
ボディスは絹サテンに、金糸による刺繍。袖口に金糸のレースがついていて、ウエストに同じ金糸レースが留められている。
共布のショールにはドレスと同じ刺繍。
大きくひらいたデコルテからは、優美な鎖骨と胸の谷間が見える。
腕のまろやかさを引き立てる小さな袖。
ぎゅっとしぼられた腰からはドームのような形で地面すれすれまでスカートがある。
アクセサリーは金の台にブルートパーズのネックレスと揃いのイヤリング。
ネイトは。
テール・コートはこげ茶のウール、衿はベルベット。
ベストは上着よりは淡い茶の絹サテンに、玲奈のドレスと同じ模様を刺繍している。ズボンはクリーム色。
体に沿った仕立てが、いやがうえにも彼の体のラインを引き立てている。
「古城を日本に移築したと聞いて、泊まってみようと思って。せっかくだから1850年代のヨーロッパ貴族の服装を模してみたんだ。玲奈、素敵だね」
「ネイトこそ……」
あまりに貴族らしいいでたちに、玲奈がぽーっとなっていると、彼は彼女の前にひざまづいた。
そっと玲奈の手をとり甲に口づける。
ネイトは、襟元からヴューラー家のペンダントを取り出し、外した。
震える玲奈の薬指にはめる。
「僕の希望、僕の光。僕の玲奈、愛しています」
日本語だと気がついて、互いの髪と瞳の意匠の服であることに玲奈が気づいて真っ赤になった。
「……私も……貴方を愛してます……」
小さな声だったが、ネイトはきちんと聞き取り、立ち上がると彼女の唇にキスした。
抱き上げると、天蓋に覆われた巨大な寝台に彼女を運んだ。
穣から聞いたとき、日本はなんていい国なのだろうとネイトは思った。
バレンタインデーの数日前。
日本時間金曜日の19時に、多賀見製薬本社の駐車場にリムジンを止めた。
花束とジュエリー、ドレスを贈り、埠頭に停めていた船でクルーズディナー。
土曜日は二人、ベッドの中で情熱的に過ごした。
翌日。
穣の言葉通り、玲奈からチョコレートとベネチアングラスをあしらったカフスリングを貰った。
ヴューラー家の指輪を嵌めるとき以外、滅多に言葉に出してくれない玲奈が、この日ばかりは『ネイト、大好き。……愛してる』とはじらいながら告白してくれた。
おまけに。
『お揃いなの』
彼女の胸元に光ったベネチアングラスの輝きを見て、ベッドに押し倒した自分は悪くないと思う。
さらには。
『日本ではバレンタインデーの返礼として3月14日にホワイトデーという名の恋人達の日が設けられている』と穣から聞いた。
「日本は素晴らしい!」
ネイトは感動した。
おおっぴらに愛をささやける日が他にもあるなら、利用しなければならない。
プレゼントを贈るたび、『贅沢しちゃだめ!』と怒るフリをしているが、本当は玲奈がリボンやフリルにレースや花が好きなことを知っている。
ネイトは計画を立てた。
金曜日、リムジンに乗り込んだ玲奈は喜びに輝いていた。
「ただいま、僕の愛」
「ネイト、お帰りなさい」
彼の国籍はアメリカだが、ホームは玲奈のいる場所だ。
抱き合い、キスを互いに贈り合う。
「ネイト、道が違わない?」
玲奈が不思議そうに言う。
「内緒」
悪戯を企んでいるようなネイトの表情に、玲奈は黙った。
到着する一分前、ネイトは玲奈に目を閉じるよう指示した。
素直に目を閉じてくれた彼女を、横抱きにする。
車から降りて、ネイトはもういいよと言った。
玲奈が目をあけ、途端息を呑む。
ヨーロッパの古城のような建物が二人の前にそびえたっていた。
ネイトはそのまま玲奈をとある部屋に連れていく。
玲奈がアンティークの家具に目を白黒させていると、ネイトと入れ違いに古めかしい服装のメイド達がやってきた。
着替えさせられ、髪を言われた。
ドアをあけて、お互いに目をみはる。
玲奈は水色のイブニング・ドレス。
ボディスは絹サテンに、金糸による刺繍。袖口に金糸のレースがついていて、ウエストに同じ金糸レースが留められている。
共布のショールにはドレスと同じ刺繍。
大きくひらいたデコルテからは、優美な鎖骨と胸の谷間が見える。
腕のまろやかさを引き立てる小さな袖。
ぎゅっとしぼられた腰からはドームのような形で地面すれすれまでスカートがある。
アクセサリーは金の台にブルートパーズのネックレスと揃いのイヤリング。
ネイトは。
テール・コートはこげ茶のウール、衿はベルベット。
ベストは上着よりは淡い茶の絹サテンに、玲奈のドレスと同じ模様を刺繍している。ズボンはクリーム色。
体に沿った仕立てが、いやがうえにも彼の体のラインを引き立てている。
「古城を日本に移築したと聞いて、泊まってみようと思って。せっかくだから1850年代のヨーロッパ貴族の服装を模してみたんだ。玲奈、素敵だね」
「ネイトこそ……」
あまりに貴族らしいいでたちに、玲奈がぽーっとなっていると、彼は彼女の前にひざまづいた。
そっと玲奈の手をとり甲に口づける。
ネイトは、襟元からヴューラー家のペンダントを取り出し、外した。
震える玲奈の薬指にはめる。
「僕の希望、僕の光。僕の玲奈、愛しています」
日本語だと気がついて、互いの髪と瞳の意匠の服であることに玲奈が気づいて真っ赤になった。
「……私も……貴方を愛してます……」
小さな声だったが、ネイトはきちんと聞き取り、立ち上がると彼女の唇にキスした。
抱き上げると、天蓋に覆われた巨大な寝台に彼女を運んだ。