「あのね、ネイト……」
「しかし、僕にはホテル経営のノウハウはない」

 ほ。
 冷静だ。

「やってやれないことはないだろうが。玲奈の住んでるマンションを土地ごと買って、セキュリティチームを住まわせたほうが、簡単か」

 ん?

「あのドイツパン屋は近くに欲しいし……。だが、市街地は襲撃されやすい」
「襲撃っ?」

 日本では、普通の暮らしをしていれば聞かない言葉に飛び上がりそうになる。
 
 ……でも。
 体は日本という比較的安全な国に在っても、ネイトの心は常に緊張しているんだろう。

「ホテルを改修したほうが、後々便利かな。そうだ、この部屋の床を強化して、防音性を高めればグランドピアノを置けるか」

『Nate. Hotels are more convenient for expatriates from overseas
(ネイト。海外からの駐在員を泊らせるなら、ホテルの方が利便性がいい)』

 お兄様、煽ってるし。
 しかし、なんで英語?

『If you want to buy a hotel, why not talk to Estark Hotel for management?
(ホテルを買うなら、管理はエスタークホテルに声かけてみたらどうだ?)』

 男の人にとっては、経営戦略ってゲームに過ぎないのかしら。

 ……一方。ネイトの気が済むまで、警備体制を徹底させたほうがいいのかもしれないとも思う。
 緊張を解ける空間で、彼が安らげる時間を私が作ってあげられるといいな。