部屋に入ると、思わずほう……と息が漏れる。
 お父様が『心配だぁ!』と号泣してくださたおかけで、セキュリティばっちりなマンションに住んでいる。
 おまけに実家のお手伝いさんが三日おきに来てくれる。
 ……どこのお嬢様なの?!
 我ながらツッコミが入ってしまう。
 東証1部上場企業、 多賀見製薬株式会社の社長令嬢です。

「なんて、ね。言っても虚しいなぁ」

 名乗っていいことなんてない。
 友達と食べに行っても『奢ってよ』とか、そんなことばっかり。
 
「……お手伝いさん。最初は『せっかくの一人暮らしなのに!』と思ったけど。出張・残業続きだと、人の手が整えてくれた部屋や手料理がありがたいなぁ」

 シャワーを浴びて、ベッドにダイビング。

「今日もふかふかのお布団と石鹸の香りがするシーツで……し、あわ……スゥ」

 仮眠から覚めてブランチをとると、元気が湧いてきた。
 ……とはいえ、独りでいると昨日のことを考えてしまう。久しぶりに実家に行くことにした。 

「こんな時は三連休万歳よね」

 明日も休みじゃないと、実家に日曜の午後から行くのは億劫だ。


 帰ってみると、お祖母様は(うたい)の稽古。
 両親は知り合いのパーティに参加中とか。

「助かったぁー」

 お父様たち、目敏いんだもの。
 問い詰められて自白なんて冗談じゃない。
 なにが悲しくて家族相手に『ワンナイトラブをしちゃいました』なんて、自爆スイッチを押さなければいけないの。