「あ」

 私のではないペンダントが置いてあった。

 昨日、彼が首からぶら下げていたものだ。
 古びた真鍮のような色合いの指輪を通した、ごつめのチェーン。
 私にのしかかっていた彼が動くたび、コツンコツンと当たった。

『Können Sie den Anhänger entfernen?
(ペンダントを外してもらえる?)』

 ってお願いしたら、ためらってたっけ。
 それからニッコリと微笑んでくれて。

『Wie du sagst
(君の言うとおりに)』

 キスしてから外してくれた。

「大事そうだったけど」

 丁寧に両手でそっと置いていた。

「もしかして、宿代がわり?」

 手にとると重みがかなりある。
 指輪の下にドイツ語で書かれたらしきメモが挟んであったけど、読む気にもなれない。

 くしゃりと丸めてベッドの上に放り投げた。
 ……いっそ指輪も捨てていこうかもと思ったけど、なんとなく首にかけてしまった。