「……玲奈の身上調査をしたとき、『父親に高級賃貸マンションの金を出させている。上昇志向が強く、手段を選ばない』と」

 あちゃー……。
 知ってたのね。だから、再会したときのネイトの態度が最悪だったんだわ。

「目の前にいる君と、同じ人物には思えない」

 顔をあげたら、ネイトの目が真実を寄越せと訴えている。
 私はもう一度、彼の胸に頬を寄せた。

「私のお給料では正直、お父様の要求する安全基準を満たすマンションはキツかったの」

「令嬢だから、誰よりも月給はいいんじゃないか?」

「そんなことしたら、ウチの会社で働いてくれてる人に失礼じゃない!」

 憤慨した私は上半身を持ち上げると、叫んだ。
 ネイトの目が丸くなる。

 お兄様は幹部試験を受けての入社だからエリートコースなので、高給取りで当然。
 でも、一般入社の私は違う。

「とにかく私は今も、月収の1/3を家賃に充てている。少しでも安全な建物に住んで欲しいってお父様の要望だったから、最初こそ少し補助してくれた。でも、お父様は『買えるなら安全は金で買うべきだ』と反省したの。翌月以降、会社から家賃を払ってる社員に補助が出るようになったわ」

「そうだったのか」

 ネイトの手がなだめるように私の背中に添えられた。
 そっと彼の胸に戻されたので、大人しく従う。

「企業は社会を、少なくとも社員の生活の向上に対して義務がある、てお父様は常に言ってたけど。私が一人暮らししたことで、初めて実感したと言ってた」 
「ああ」