「だから、昔の話でしょ」


ハッとしたように立ち上がる花。


ここからなぜか不穏な空気が漂いはじめた。


「俺のこと好きって言ってくれてたのに」


「もうっ、それは子供の頃の話だから」


「結婚の約束だってしたのに。花のお父さんの前で、お嫁さんになってくれるって」


「だから、昔の」


彼女は俺の方をチラチラ見て気にしているようだ。


「お風呂にだって一緒に入った仲なのに」


アホらしい、子供の頃の話を持ち出すなんて。


それにしてもデリカシーのない奴だな。


「や、やだ。やめてよ。そんなこと言うの」


震える声でそう言った彼女の顔がみるみる赤く染まっていく。


そんな彼女が可愛いとさえ思ってぼんやり見ていた。


「キスだって何回もしたのに」