どうして先生は、私にチョコレートをくれたのか分からずに困惑して、先生と手のひらに置いてあるそれを交互に何度も見つめていると、


「疲れてるときには甘いやつ摂るといいよ」

言って、笑った先生。


「えっ? 疲れてる?」


一瞬、心を見抜かれてどきっとした。


「俺にはそう見えたけど、違ったか?」


そう尋ねられたけれど、肯定をすることも否定をすることもできなくて、先生から少しだけ目線を下げてネクタイの結び目をじーっと見つめた。


誰かに心を見抜かれたのは初めてだ。
友人たちでさえも見抜かれたことないのに、どうして……。
だって私は今もちゃんと笑っていたはずなのだから。
それなのに先生は、なぜ簡単に私の心を見抜いてしまったのだろう。


「花枝」

ふいに、名前を呼ばれて顔をあげると真っ直ぐ伸びてきた手。それに思わずぎゅっと目を閉じると、ふわっと頭に温かい何かが添えられた。
な、なに? そう思って恐る恐る目を開ければ、それは宮原先生の手のひらだとすぐに分かる。


「何か悩んでるのかもしれないが、俺は、いつでも花枝の味方だからな」


すぐ近くにある先生の綺麗な唇から解き放たれた言葉は、私の心をひどく動揺させる。

いい子を演じてきていた私。
けれど、その一瞬だけは私は偽ることはできなかった。
笑って誤魔化すことができなかった。