「七海、今日駅前のドーナツ屋さん行かない?」


ホームルームが終わると、楽しい予定に私も誘われるが、パチンと両手を合わせた。


「…ごめん。今日妹の迎えに行かなきゃならなくて…」


申し訳ない顔でそう返事をすると、そっかぁ、じゃあまた誘うねと頷き合うと、また明日と言って手を振る二人。
それに私は手を振り返すと、楽しそうに二人でおしゃべりをしながら教室を出た。

予定に誘われることは、ふつうに嬉しい。
けれど、みんなと同じように過ごすことが私には少し難しくて、家の用事を済ませなくてはならない。
家でも"いい子"を演じている私。
それにはとても複雑な理由が絡んでいて、とてもじゃないけれど二人に話す勇気はまだ私には整えられていなかった。

私のプライベートを全て教えているわけではないから、何がそんなに大変なの、と思われても仕方がないのかもしれない。
今それを尋ねられたところで答えられるすべを持っていない。

人間生きていれば、踏み込まれたくないというのは誰にでもある。
自分のテリトリーを打ち明けるのは、よっぽど親しくならないとまず無理だ。
二人と一緒に行動をするようになって二年目になるが、その兆しは一向にやってこない。
それはきっと私自身の問題だ。

家族を優先すると、こうなると理解していたはずなのに一人ぼっちになる放課後はとても寂しかった。

けれど、私は一人なわけではない。
明日になればまた二人に会える。
当たり前のように輪の中に入って、楽しいおしゃべりに花を咲かせる。
ほんとの意味で孤独なわけではない。

だから私は、大丈夫。
明日も笑えば、笑い返してくれる。