「あ、そうだ!」
思い出して、私はさっと会長から離れる。
会長は私の髪に触れていた手を宙に浮かせたまま、恨めしそうに私を見ている。
でもこれは、絶対、渡さなきゃ。
バッグと一緒に持って来た、小さなクーラーボックス。
私はそれに手を伸ばし、中からカップのアイスを取りだした。
「ストロベリー味です」
ドライアイスと一緒に、蓋付きのカップに入れてきたから溶けていない。
会長はぼんやり、私の手元のアイスを見ている。
嬉しく、なかったかな。
「えーと、風邪の時って、アイス食べたく、なりません?」
聞くと、会長はしばらく黙ったあと上目遣いで私を見て、にっこり笑った。
「なるな」