「やっべ。遅刻だ。」
そう言いながら走っているのは、芦屋一樹。
見た目はイケメンで口調も男だが、実は女の子だ。
しかし、女の子だと思う人はいないだろう。
なぜなら、制服が舟艇高校の制服だからだ。
舟艇高校とは、ここらじゃ結構有名な高校である。
別に頭が飛びぬけていいわけではない。
にも関わらず、ここらで高校の名前を挙げるとしたら舟艇高校の名前が一番に出てくる、というくらいである。
それもそのはず。
実は男子校じゃないのに、男子しか入学してこないという、ちょっと・・いや、ずいぶん変わった学校なのだ。
「何しとる?ぼく。遅刻じゃねえか。」
走っていた一樹にトラックの運転手が話しかけた。
一樹はぼくと言われたことを気にもせずに、トラックの運転手に返事を返す。
「おぉ!この前のおっちゃん。そうなんだよ。遅刻だ遅刻。入学式早々遅刻だぜ。母さんが起こしてくれないから。おれは不幸だ。」
「はっはっはっ。遅刻したのはおめぇのせいだろうが。ま、入学早々遅刻したら、先生に悪ぃわな。乗りな。おくってってやる。もうすぐそこだけんどな。」
「うぉっ。おっちゃん男前ぇ!」
一樹はそう言うと遠慮もせずにトラックに乗り込んだ。
トラックはまた、走り出す。