「私は奏多くんがいいの。奏多くんしかダメなの」

そう言われ、奏多の目の前が涙でぼやけていく。その時初めて、人は幸せでも泣いてしまうのだと知った。

「俺も、ずっと愛華ちゃんが好きです。こんな俺でよかったら喜んで」

そして二人は交際を始めた。

交際が始まったとはいえ、デートはお金持ちなクラスメートが行くような場所へは行かず、遊園地や水族館に行ったり、カフェでお茶をして楽しんでいた。

そして高校を二人は卒業し、奏多は音楽系の専門学校へ、愛華は有名な女子大へ通うことになった。そんな時、愛華に「両親に紹介したい」と言われたのだ。

「は、初めまして。愛華さんとお付き合いさせていただいております、奏多と申します」

そこそこ高い服をこの日のために買い、緊張しながら高級な家具ばかり置かれたリビングで奏多は愛華の隣で愛華の両親に挨拶をする。愛華の両親二人に笑顔はなく、奏多は嫌な予感しかしなかった。

「君の家は会社を経営しているのかね?」