自転車をこぐ翔の背中から、いつもと違う匂いがした。



「翔、香水変えた?」


「あん? ちげーよ。今日はつけてねーもん」


「えーでも匂うよ」


「匂うとか言うな。ワックスの匂いじゃね?

さっきつけたばっかだし」


「ふーん」



通勤ラッシュで混雑する大通りを、軽快にすり抜ける自転車。


憂鬱でしかなかった朝も、翔がいれば、幾分かマシだ。