教室のドアをくぐりかけていた藤島(ふじしま)は、廊下(ろうか)にいたあたしたちに気づくと、ずっと視線を感じていたのは気のせいじゃなかったって。
 あたしに思い知らせるみたいに、あたしをにらみつけてきた。
(…の、やろう)
 涼子(りょうこ)がふられたっていう話を聞いてから、にくさ百倍だったけど。

 そんなことをされたらな……。

 にらみ返しながら、ずいっと前に出ると
「やめて!」
 あたしの腕にすがっていた涼子が、短く叫ぶみたいに言って、あたしを止める。
「だって、涼子」
(アイツは――アイツは――)
 ひとこと言ってやらなきゃ、気がすまないよ。
「やめて!」涼子が眉毛を寄せて首を振る。
「あ…たしが好きなら、やめて! もう藤島くんとは関わりあいに…ならないで!」
「涼子……」
(ああ……)
 そんなにつらかったの?
 そんなに好きだったの?
 自分のことみたいに腹が立って。
 ギリギリと穴でも開けられるほど、にらみつけてやったのに。
 藤島は平然と、あたしの視線を受け止める。
(許さない!)
 涼子が許しても、あたしは許さない。
「行こう! 明緒、も、行こう」
 涼子にぐいぐいと腕を引かれて。
 あたしの視線がそれたすきに、藤島は廊下を歩きだした。