ガタガタと椅子や机を移動して。
 拭き掃除が始まった放課後の教室を出て、当番の社会科教室の掃除に向かいかけると、涼子(りょうこ)が追いかけてきた。
「ね、ね、明緒(あきお)。今日、掃除さぼってさあ、ちょっとお買い物に行かない?」
「パス!」
 あたしが、規則を守りたい人間だっていうことは知っているくせに。
 まぁ理由は――
 だれにも後ろ指をさされたくない。
 あげあしを取られたくない。
 弱みを握られたくない。
 そんな、仲間はずれにされたあとに心に巣くった、こじれた反抗心だったりするから自分でもイライラするんだけど。

「ひとりで行きなさい」
 ほかの子を誘いなよ、と言わないだけ、あたしは涼子には優しいでしょ?
「お願いぃ」めげない涼子があとをついてくる。
「近藤さんのおかげで、あたしも服、ほしくなったの。ね」
「だったら、まず掃除をしてきなさい。どこ当番なの? さぼる子はきらいだよ」
「明緒、冷たーい」
「あなたねぇ…」
 仕方なく立ち止まって。
 お説教をぶちかましかけたあたしの腕を涼子がつかむ。
 あたしを素通りしている涼子の視線を追いかけると、アイツがいた。
 見るからに帰りじたくをして、掃除なんてさぼる気まんまんの藤島(ふじしま)が。