話が終わったタイミングで、コニーから食事が出来たと声がかかった。メルは黙って鳥のフリをし、ランもせっかく来たからと一緒に食べることになった。

「今日も、美味しい……」

 鶏肉を噛みしめながら、アガタはしみじみと呟いた。
 生姜焼きというだけでも美味しいのに、蜂蜜を加えることで柔らかさと甘さ、コクが出て更に美味しくなっている。しかも、一緒に米までついていて驚いた。皆、普通に食べているがおそらく、初代語り部が見つけて獣人達に広めたのだろう。

(生姜焼きにはお米よねぇ)

 昨日の夜と今日の昼で、アガタは今までのエアヘル国での十日くらい――いや、量はそうだが以前は肉など出されなかったし食欲もなかったので、それこそ両親と死に分かれて以来の満足感だった。今、思えばパンだけで十年以上とは、栄養面的にも酷いブラック企業だ。

(これでまた、頑張れる)

 お風呂も入れたし、疲れも取れた。あとは『お礼』をして、メルとまた旅立とう。
 ここはとても居心地が良いが、昨日の様子を見る限り人間の自分がいては、獣人達を不安にさせてしまう。それでは、駄目だ。
 そう思っていたアガタの耳に、思いがけない言葉が届いた。

「俺も行く」
「……えっ?」
「ダルニア国に行くんだろう? 昨日までの感じだと、しばらくエアヘル国には行かない方が良さそうだ」

 ランの言葉に、今までは結界で守られていたのに、魔物が現れたという話を思い出した。神官達がいるのでいずれは復旧すると思うが、確かにしばらくは様子見の方がいいだろう。

「でも、ラン……捕まらない? 大丈夫?」
「ああ。フード付きの外套を着れば、耳も尻尾も隠れるし。ダルニア国にも蜂蜜の買い手はいるからな。それこそ、アガタの身の振り方が決まるまで面倒見てやるよ」
「……ありがとう。助かる」

 元々面倒見は良さそうだが、同じ転生者ということで更に気にかけてくれたのかもしれない。今まで箱入り娘状態だったので、ランの申し出は本当にありがたかった。肩に乗ったメルも、拗ねたように羽根を膨らませているが、止めてはこないので同じ気持ちらしい。

「もう行くのですか? あと、一晩……いえ、数日くらいしっかり食べて、休んだ方が」
「いえ、十分お世話になりました。本当に、ありがとうございます」

 優しいコニーが引き留めてくれたが、甘えてはいけない。そんなアガタの気持ちが伝わったのか、ロラは笑って頷いてくれた。

「解ったよ。ただ、弁当くらいは持っていきな。ありものだけどね」
「ありがとうございます! あの……お礼に、結界張らせて貰っていいですか?」
「「「えっ?」」」

 お金のない(むしろ、これから貰うことになっている)元聖女のアガタに出来ることは、これくらいだ。
 目には見えないが、精霊はエアヘル国だけではなく世界中にいる。だから理論上は、エアヘル国を出ても結界を張ることは可能な筈だ。

(ランやロラさんが驚くところを見ると、結界については知識がないのね……エアヘル国独自のものなのかしら?)

 と言うか、理論的には可能だが実はエアヘル国以外では出来ないとか――言ってから心配になりメルを見ると、大丈夫というように頷いてくれた。



里を出る理由を書き加えました。