聖女とは精霊の声を聞き、その力を借りて結界を張り巡らせ、この国――エアヘル国を守護して、精霊の加護を示す存在である。
そしてエアヘル国では、聖女が現れたら王族と結ばれることになっていた。それは、平民から選ばれた聖女・アガタも例外ではなかった。
……宰相の娘が、新たな聖女として認められるまでは。
「聖女アガタ……貴様との婚約を破棄し、新たな聖女・マリーナを我が妻とする!」
この世界に、誕生日はない。どの国でも新しい年になると、一つ年を取るという考え方だ。だからこそ毎年、年が明けた日は家族で祝い合い、翌日に身分によって規模は違うがパーティーが開かれる。
それ故、王宮でも今夜、新年を祝うパーティーが開かれていたのだが――国中の貴族が集められた場で赤毛の王太子・ハーヴェイは金髪の少女・マリーナの腰に手を回しながら、簡素な神官服を着たアガタを指差していた。
一見、唐突な発言だが会場内は驚きではなく、やはりという雰囲気だった。いや、雰囲気だけではなく実際、彼らは口に出していた。
「よし、認めよう」
「マリーナは、侯爵家の令嬢ですもの。次期王妃の座も、安心して任せられるわ」
事前に話を通していたのか、国王と王妃は王太子の突然の宣言に白々しく頷き。
「多少は精霊の加護があるようだが、その声を聞けぬ出来損ないなど、聖女にも殿下の婚約者にも相応しくない」
「マリーナ様がいるのならもう、あんな地味な平民など必要ないだろう。さっさと城を出ていけ!」
「まあ、皆様。流石に、追い出しては可哀想ですわ……わたくしの従者として、これからも共に国を守りましょうね」
「ええ、僅かとは言え、精霊の加護を受けていますからな」
貴族達の嘲りに対して新たな聖女となったマリーナと、マリーナを聖女として任命した大神官が恩着せがましくそう言った。
肩書きこそ『聖女』で『王子の婚約者』だったが、アガタは国を守る結界こそ張れるが、精霊の声が聞こえない『出来損ない』で。仮にも婚約者なのに、貴族としての教育も受けず。ただ城の奥で、結界を張り続けるだけだった。
もっとも、それは当たり前だとされていた。基本、精霊の加護を受けるのは貴族のみである。だから、本来なら平民のアガタが聖女に選ばれることなどなかったが、先代の聖女が急に亡くなったのでたまたま、次の聖女が現れるまでの繋ぎとして選ばれたのだと聞いていた。
この国では、十五歳になると精霊の加護を得ているか調べられる。大抵は神官となるのだが、宰相家からは以前も聖女が出ていた。万が一を考え、表立っては口にされていなかったが、マリーナが聖女になるのはほぼ確定と言われていたのだ。
……そこまで考えて、アガタはふと引っかかった。
(えっ? 白々しく? 恩着せがましく?)
出来損ないの平民と馬鹿にされ続け、国に魔物や敵が入って来ないよう結界を維持しても感謝などされず。逆に出来損ないだから、出来ることをするのは当たり前だと言われた。
だが、今までならただただ申し訳なく思い、むしろ僅かでも出来ることがあるのなら喜んでいた筈だ。それが今は、全くそう思えない。
『……安形(あがた)! この仕事やっとけよ……俺? 俺は、脳無しのお前と違って忙しいんだよ!』
そう、今のアガタは今までとは違う。
同じ名前だが、違う言語で――違う国、いや、違う世界でも昔、自分は周りから罵られて仕事を押しつけられていたことを思い出したからだ。
そしてエアヘル国では、聖女が現れたら王族と結ばれることになっていた。それは、平民から選ばれた聖女・アガタも例外ではなかった。
……宰相の娘が、新たな聖女として認められるまでは。
「聖女アガタ……貴様との婚約を破棄し、新たな聖女・マリーナを我が妻とする!」
この世界に、誕生日はない。どの国でも新しい年になると、一つ年を取るという考え方だ。だからこそ毎年、年が明けた日は家族で祝い合い、翌日に身分によって規模は違うがパーティーが開かれる。
それ故、王宮でも今夜、新年を祝うパーティーが開かれていたのだが――国中の貴族が集められた場で赤毛の王太子・ハーヴェイは金髪の少女・マリーナの腰に手を回しながら、簡素な神官服を着たアガタを指差していた。
一見、唐突な発言だが会場内は驚きではなく、やはりという雰囲気だった。いや、雰囲気だけではなく実際、彼らは口に出していた。
「よし、認めよう」
「マリーナは、侯爵家の令嬢ですもの。次期王妃の座も、安心して任せられるわ」
事前に話を通していたのか、国王と王妃は王太子の突然の宣言に白々しく頷き。
「多少は精霊の加護があるようだが、その声を聞けぬ出来損ないなど、聖女にも殿下の婚約者にも相応しくない」
「マリーナ様がいるのならもう、あんな地味な平民など必要ないだろう。さっさと城を出ていけ!」
「まあ、皆様。流石に、追い出しては可哀想ですわ……わたくしの従者として、これからも共に国を守りましょうね」
「ええ、僅かとは言え、精霊の加護を受けていますからな」
貴族達の嘲りに対して新たな聖女となったマリーナと、マリーナを聖女として任命した大神官が恩着せがましくそう言った。
肩書きこそ『聖女』で『王子の婚約者』だったが、アガタは国を守る結界こそ張れるが、精霊の声が聞こえない『出来損ない』で。仮にも婚約者なのに、貴族としての教育も受けず。ただ城の奥で、結界を張り続けるだけだった。
もっとも、それは当たり前だとされていた。基本、精霊の加護を受けるのは貴族のみである。だから、本来なら平民のアガタが聖女に選ばれることなどなかったが、先代の聖女が急に亡くなったのでたまたま、次の聖女が現れるまでの繋ぎとして選ばれたのだと聞いていた。
この国では、十五歳になると精霊の加護を得ているか調べられる。大抵は神官となるのだが、宰相家からは以前も聖女が出ていた。万が一を考え、表立っては口にされていなかったが、マリーナが聖女になるのはほぼ確定と言われていたのだ。
……そこまで考えて、アガタはふと引っかかった。
(えっ? 白々しく? 恩着せがましく?)
出来損ないの平民と馬鹿にされ続け、国に魔物や敵が入って来ないよう結界を維持しても感謝などされず。逆に出来損ないだから、出来ることをするのは当たり前だと言われた。
だが、今までならただただ申し訳なく思い、むしろ僅かでも出来ることがあるのなら喜んでいた筈だ。それが今は、全くそう思えない。
『……安形(あがた)! この仕事やっとけよ……俺? 俺は、脳無しのお前と違って忙しいんだよ!』
そう、今のアガタは今までとは違う。
同じ名前だが、違う言語で――違う国、いや、違う世界でも昔、自分は周りから罵られて仕事を押しつけられていたことを思い出したからだ。