「わ、わあ、伽夜サン」

「……なあ葉柴、こいつどうした?」

「さ、さあ。わたしも状況が飲み込めてなくて」



私から教科書を奪い取ろうと画策する伽夜は、力押しで私の顔から引っ剥がそうとしている。

対して私は、赤くなっているであろう顔を見られまいと、必死に耐える。


けれど、防戦一方もいいところ。

このままじゃ力で押し負ける。教科書を取られてしまう。


それだけはなんとしても避けねば。



「ちゃ、ちゃんと前見て歩きますから……」

「階段あるんだからそのままは絶対危ない。こける」

「階段下りる時は凛琉に教えてもらいますし、目だけは出しますので……」

「なんかホラーチックだな」



怪訝そうにしながらも、隣に凛琉もいたからか大目に見てくれたようで、すんなりと手が離れた。

……そして、手が離れてホッとした気持ちと、相反する気持ちが心の中で生まれていて、ほんと、制御がきかなくて困る。



「じゃ、授業中寝るなよ」

「うっ、それは伽夜に言えることなのでは……?」

「俺は寝る」

「公言しても見逃してはもらえないと思います……」



最後に二度、頭に触れた掌が、また上書きされて鮮明に残る。


遠ざかる足音に、ちらりと教科書をずらして覗き見ると、太陽に反射して銀色がきらめいている後ろ姿が見えて。



………離れたいまでも心臓が早鐘をうっているんだから、これはほんとうに、末期というほかないと思う。