「女は怖いのう」


 一通りのあらすじをたどり終えると、講読会に参加している公家の一人がそう口にした。


 心より恐怖を覚えてというより、むしろ小馬鹿にした口調だった。


 「古来より申すでないか。女の嫉妬は恐ろしいと」


 「哀れよのう。飽きられ捨てられた女の怨念は」


 公家どもが口々に、六条御息所の行為を非難していたところ。


 「……光源氏が、もっと能力のある祈祷師でも雇ってさっさと怨霊を退散させておけば、こんなことにならなかったのだ」


 御屋形様がこう言い放った。


 ……確かにその通りだ。


 手遅れにならないうちに、六条御息所の生霊を鎮めることができていたら……。


 「すみませんやはり気分がすぐれませぬ。失礼させていただきます」


 いたたまれなくなった私は席を立ち、呆気に取られる一同に背を向けて一目散にその場を後にした。


 御屋形様の耳に届かなかったとは思うが、公家の誰かが私に向かって、「所詮は寵童上がりの分際」「学がなくて話についてこれなかったのだろう」などと陰口を叩いていた。