「……本日は、『葵(あおい)』の帖(じょう)を」


 御屋形様は公家たちを集めて、雅楽の集いやらお茶会などを定期的に開催していたが。


 この日は『源氏物語』の講読会だった。


 源氏物語五十四帖を最初から一つ一つ読み進めていて。


 九帖目の『葵』の帖に到達していた。


 葵とは光源氏の正妻・葵上(あおいのうえ)のことであり。


 この帖の舞台ともなる「葵祭(あおいまつり)」を指しているのかもしれない。


 ……毎年四月(旧暦)に開催される葵祭にて、光源氏は祭の行列に加わっている。


 身重の葵上も夫の晴れ姿を見物に訪れていたが、光源氏の愛人である六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)一行と鉢合わせてしまう。


 振る舞われた酒の勢いもあり、御付きの者たちが乱闘騒ぎを起こす。


 正妻と愛人との代理戦争。


 大勢の人たちの面前で恥をかかされた六条御息所は、正室の葵上に対して恨みを募らせ……。


 生霊として葵上に取り憑くようになり、葵上に難産をもたらし、産後体調を崩していた葵上は衰弱し、ついに命を落としてしまう。