そんなある日のことだった。


 「申し訳ありませんが、私は遠慮したく……」


 無理やり御屋形様の元を立ち去ろうとしたが、


 「何を申す。お前がおらぬと場に華がない」


 御屋形様は許さない。


 「……私は学問には疎い、武骨者ゆえ」


 「武骨者だと?」


 御屋形様は私の言い訳を一笑に伏す。


 「お前は私が育て上げた、最高傑作だ。武術も、学問も。それに……」


 不意にその手が、私の首筋に触れた。


 じらすような指先。


 この身に官能の全てを刻み込んだのは自分であると、まるで思い出させるがごとく。


 「……ともかく、私は帰らせていただきます」


 このままではまた溺れてしまいそうで、私は慌てて身を離した。


 館の廊下とはいえ、どこに人目があるか分からないし。


 「お前にはこの国で最高級の学問も教え込んである。何も遠慮する必要はない」


 結局、御屋形様に押し切られる形で。


 私は嫌々ながら、読書会に出席させられることとなった。


 公家どもの暇つぶしの集まりになど、顔を出したくなんかないのに……。