屋上の風に吹かれながら唖然とする綾の目の前にはヘリコプターが待機していた。

「ヘリから見る東京の夜景は綺麗だよ。君に見せたくて」

　海斗は思い切り戸惑う綾に構わず手を引きヘリコプターに乗せ準備すると、パイロットに飛び立つように声を掛けた。

　ヘリコプターは東京の上空に飛び立ち、あっと言う間に眼下に暮れなずむ東京の夜景が広がっていく。
　宝石を撒き散らしたように輝いて見える東京ベイエリア。遠くには富士山を始め山々の稜線。まだ少し明るさの残る空と暗く沈み込む山間部のコントラストがはっきりと浮かび上がる。

　あまりの美しさに息をするのを忘れるように見入ってしまい、短時間のフライトだったが、夢のような時間を楽しんだ。
　

「すごく綺麗で……こんな世界があったんだなって思いました」
まだ何か体に浮遊感が残っている。

　興奮冷めやらぬ綾を海斗は夕食に誘った。
　ここは初めてふたりで食事をしたレストランだ。

「晴れていて良かった。いつか僕の操縦で乗せてあげるよ」
　
　何でも、アメリカに留学していた時にヘリコプターの操縦免許を取得しているらしい。
　どんだけハイスペックなんだ。
　　
　以前と同じ個室に通されて、同じように向かい合って座って話をする。
　今までと違うのは海斗にアルコールを勧められたことだ。
　
「パーティではお酒も出るからね。一杯くらい飲めても良いと思うよ」
　
　これまでは海斗も綾を車で送るために飲んでいなかった。綾は別に酒好きな訳でも無いし、自分だけ飲むのも悪いと思って控えていた。
　今夜は海斗も飲むらしい。帰りは城山に車を出してもらうつもりなのかもしれない。
　
「じゃあ……頂きます」
　
　海斗が注文したシャンパンでふたりは静かに杯を合わせた。
　少し丸みのあるフルートグラスに注がれた黄金色の液体は気泡でキラキラして見える。
　
　今日は特別なものにたくさん触れた。綺麗なドレスやアクセサリー、上空から見る宝石のような夜景、高級なシャンパン、そして目の前の素敵な男性も。
　
　夢のような一日だった。
　
　これまでもそうだった。海斗は綾に優しさと演技力を持って、極上な時間をくれた。
　
　しかし、それが極上であればあるほど、彼が遠い存在だと感じて寂しい気持ちがあることを身にしみて感じてしまった。
　
　もう甘えるのはやめにしよう。