「ベリーヒルズなら、自分で行けたのに、すみません」

 翌日、昼過ぎに城山が自宅まで迎えに来てくれた。
 何回目だろうと言うくらい乗り慣れてしまった車で向かうのはベリーヒルズらしい。
 
「いえいえ、綾さんに会えばウチの室長の機嫌が格段によくなるので。お安い御用です」
 周りで働く人間の為にも切にお願いしたい。と言われ、彼は仕事が忙し過ぎて機嫌が悪いのかと体調面も含めて心配になる。

 城山に連れられてホテルエントランスに到着した。
 シックなヨーロピアン調の広大なエントランス、少し入った所にロビーラウンジがある。
   
 ソファーに座って居た海斗がこちらに気付き立ち上がる。
 スーツでは無く中に白いTシャツを合わせたジャケットスタイルがカジュアルになり過ぎず、このホテルの格調高い雰囲気にも違和感なく調和しながらも存在感を放っていた。
 
「綾!」
 
 そんな彼が自分を見つけると蕩けるように嬉しそうな顔してこちらに近づいてくる――たしかに上機嫌に見える。

(うぅ……イケメンが過ぎる)

 何故か呆れた顔で脱力する城山と別れた後、海斗にホテル内のブティックに案内される。
 
「わぁ、ホテルのブティックなんて、初めてです」

「君に似合いそうなものをいくつか準備してもらってる。せっかくだから楽しんで色々着てみたらいい」
 
 やはり、パーティ用のドレス選びだった。事前に話がしてあったようで、貸し切りの店内には、綾の為に準備されたドレスが数着スタンバイされていた。
 恐縮する綾に構わず、店長はじめ係の女性達3人がかりであれこれ着せてくる。
 まるで着せ替え人形になったようだ。
 
 シフォン生地のふわりとしたロングスカートのものや、総レースで全体的にタイトなデザインのものなど、どのドレスも綾が袖を通したことの無いような高級なものに見える。
 綾でも知っている高級ブランドのタグがついているものもある。
 
(え、これ、レンタル……よね?)

 底知れぬ不安を感じながらも、試着を進め、都度海斗に披露する。
 彼はいちいち嬉しそうに「可愛い」「似合う」と言って綾の気分を上げてくれていた。
  
 最後に試着したのは、オーガンジーレースが上半身に使われたネイビーのドレスだ
 ノースリーブの上半身はすっきりした形、
 同色のオーガンジー生地をを使用したスカート裾はミモレ丈。フィッシュテールになっていてシックだが華やかさもある。