朱莉が涙が止めどなくあふれる目で蘭を見つめる。蘭は朱莉を見つめ、言った。

「それが私の仕事だからです。亡くなってしまった人とは、もう話すことができません。しかし、監察医にだけはわかるのです。亡くなってしまった由美子さんが伝えたい事件の真実が……」

「そんなの、わからなくていい!!」

蘭のお腹に鈍い痛みが走る。朱莉に殴られたのだ。いつもの蘭なら朱莉の攻撃など簡単に避けられるし、止めることもできる。しかし、蘭は表情を変えることなく自分を殴り続ける朱莉を受け止めていた。

「だって、お母さん、もう帰って来ない!!ボロボロにされて、さらに傷付けられて、見ていて辛いの!!あなたにはわからないでしょ!?大事な人を失った気持ちなんて!!」

幼い子どものように声を上げて泣き始めた朱莉を、蘭は優しく抱き締める。初めて自分から誰かを抱き締めた。両親や星夜がしてくれたように、優しく体に触れながら蘭は口を開く。