「世界法医学研究所に何かご用があるのですか?」

蘭の問いに朱莉は何も答えず、蘭から顔を逸らして空をオレンジに照らす夕焼けを見つめた。

「……お母さんね、夕焼けを見るのが好きだったの。オレンジに世界が染まって、だんだん辛くなって、星が夜空を彩り始める。その光景を見るのが好きだったの。私もよく、お母さんと二人で夕焼けを見てた」

そう話し始める朱莉の声が震え、頬に涙が伝う。蘭はハンカチを朱莉に差し出し、朱莉と同じように夕焼けを見つめた。オレンジの空にカラスが何羽か飛んでいる。

「空をこんなにじっくり見上げるのは初めてです。あの時と同じような気持ちを感じています」

蘭はそっとエメラルドのブローチに触れる。このブローチを星夜からプレゼントされた時のように、蘭の心は温かい何かに包まれていた。久しぶりに何かを見て、心が震えている。

「ねえ、どうして?どうしてお母さんを解剖しなくちゃいけないの?」