その様子を見ていた蘭は、ふと誰かの気配を感じる。どこからか見られているようだ。蘭は自分の背後にある窓に素早く視線を移す。すると、誰かが物陰に隠れるのが見えた。

「深森さん、マルティン、碧子先生、少し外に行ってきます」

蘭はそう言い、急いで法医学研究所の外へと出る。すると、物陰から朱莉が飛び出して走っていくところだった。

「朱莉さん!」

蘭は朱莉に声をかけるが、朱莉はびくりと肩を震わせただけで足を止めない。蘭も慌ててあとを追った。

しばらく走ったところで、朱莉は荒い息を吐きながら走る速度を緩めていく。それに対し、蘭は息一つ乱れていない。

「ハアッ……ハアッ……どうしてあなた……ハアッ……息が……乱れてないの?」

「アメリカに住んでいた頃、軍隊の訓練に参加させていただいたことがあります。そこでは完全装備の状態で山道を登ったり、何百キロも走り続けたらしました」

息を吸ったり吐いたりを繰り返す朱莉を、蘭は無表情のまま見つめ、淡々と話す。