「これ、本当に俺がもらってもいいの?」


 受け取りながら確認する。


 藤枝さんの手作りクッキーなんて、めちゃくちゃほしいけど、二人の会話を聞いておきながら、もらうのは気が引ける。


「美波のことは気にしないで。それに、綾乃……これを渡すはずだった子は、今日休んでて。むしろ、余りものでごめんね」


 藤枝さんは申し訳なさそうに言う。


「全然、嬉しいよ。ありがとう」


 俺がそう言うと、藤枝さんは照れ笑いを見せた。


 女子からプレゼントをもらったことは、今までに何度もある。だが、それとは比べ物にならないくらい、ものすごく嬉しかった。


 藤枝さんと別れても、顔のにやけが収まらない。帰り道、すれ違う人が奇妙なものを見るような目を向けて来たが、俺はまったく気にならなかった。


 家に着くと、まっすぐ自室に向かった。ベッドの上にカバンを投げ置き、勉強机にしまわれた椅子を引き出す。それに座って、藤枝さんにもらったクッキーを見つめる。


 渡すはずだった相手が女子だったから、これだけラッピングが可愛いんだろう。本当に余りものだったのだと、俺のために用意されたものではないことを思い知らされる。


 しかしそれでもいいと言ったのは俺だ。傷つくのは筋違いというやつだ。


 クッキーを一つ取り出し、頬張る。


「うま……」


 それは想像していた以上においしかった。もったいないと思いながらも、藤枝さんの手作りクッキーは夕飯に呼ばれるまでの数十分でなくなってしまった。