自分で提案しておきながら、そして彼女をターゲットと言っておきながら、俺はゲームをする気にはなれなかった。


「なにそれ、どういうこと? 夏輝がターゲット見つけたって言うから、隠れたのに」


 蒼生の声色が変わる。そういう反応は予想していた。


「なんていうかさ。ダメだと思うんだわ。ああいう子は。うん、ダメ。騙しちゃダメ」


 蒼生を説得するというより、自己完結させるような、独り言のようなものだった。


 というか、いいように言っているが、本音は騙したくない、藤枝さんを傷つけたくない、だったりする。


 つまり言い換えれば、藤枝さん以外ならやってもいいという話なのだが。


「今さらなに言ってんの。ああいう純粋な子、いっぱい引っ掛けてきたじゃん」


 蒼生には伝わらなかったらしい。


 蒼生の言う通りだが、今回は状況が違う。


「今までは告白させるまで。今回は、恋人ごっこだろ。そういう冗談が通じる子で遊ばなきゃ。後が面倒そうだし」


 他人に嘘をつくことが当たり前になってきているからか、どれが嘘でどれが本心なのか、自分でもわかっていない。


 だが、藤枝さんを傷つけたくないということだけは、本心であってほしいと思った。