今の俺はさぞ滑稽だろう。


「夏に輝くって書くんだ」
「じゃあ、夏生まれなんだ?」


 俺のほうを向いて、少しだけ首を傾げる。揺れ動く髪に目が行ってしまう。


「いや、秋。十月なんだ。でも俺、姉がいて。姉ちゃんの名前に春って使ったし、次は夏だろ、みたいな。適当なんだよ」


 自虐的に笑って見せるが、藤枝さんはつられて笑ってくれない。


「そうかな。私は夏って聞くと、明るくて元気なイメージがあるから、そういう子に育ってほしいと思ってつけられた名前なんじゃないかなって思うよ」


 そんなふうに考えたことはなかった。本当の由来を聞いたことがないから知らないけど、そうであってほしいと思った。


「あ、じゃあ、私ここに用事があるから。またね」


 藤枝さんは図書室のドアの前で立ち止まり、俺に手を振った。正直話したりないけど、これ以上引き留めるわけにもいかない。


 俺が手を振り返すと、藤枝さんはそのまま中に入って行った。


「また純粋そうな子見つけたね。僕、あの子好き」


 どこから見ていたのか知らないが、藤枝さんがドアを閉めた瞬間、蒼生は現れた。


「で。今回は恋人ごっこするんだっけ?」


 蒼生が確認してくるが、俺は無視をするように、図書室の前から移動を始める。


「それなー……やっぱりやめるわ」