自分の口で伝えるべきだとはわかっている。


 だけど、綾乃に謝るなと言われてしまった以上、こうする以外謝罪の方法がないと思った。


「それと……嫌な思いをさせて、ごめんね」


 俺は藤枝さんになにかを言われる前に、その場を離れる。


 これ以上藤枝さんと向かい合っていたら、余計なことまで考えてしまう。


「柿原君!」


 まさか呼び止められると思っていなくて、俺は大げさに振り向いてしまった。


「……全部が嘘だったわけじゃ、ないからね」


 それは俺をどれだけ慰めてくれているか、藤枝さんは知らない。でも、教えるつもりもない。


 藤枝さんの優しさに付け込んで、俺たちがしてきたことをなかったことにするわけにはいかない。


「……そっか」


 だけど、女子の嘘告白に気付けなかった俺が、藤枝さんの嘘を見抜けるはずがない。どれが嘘で、どれが本当の藤枝さんだったのか聞きたくてもできず、それしか言えなかった。


 俺は藤枝さんに背を向けて歩き始める。それと同時に、頬に一筋の涙が伝った。



 嘘だった。なにもかも。


 でも、藤枝さんのことは本当に好きだった。自分で思っていた以上に。


 だとしても、俺が藤枝さんの隣に立つ資格はない。


 これは、純粋で幸せな気持ちを偽らせた報いだ。



 さよなら、好きな人。どうか、君が幸せになれますように。