「騙すようなことして、本当にごめんなさい」


 放課後、藤枝さんは俺のクラスにやってきて、頭を深く下げて俺に謝った。


 まさか彼女に謝られると思っていなくて、俺は戸惑いを隠せなかった。


「あ、あの……場所、変えよう」


 藤枝さんは一番に謝らなければと思っていたのか、周りの人の目も気にせず、教室の中で謝ってくれた。その結果、俺たちは教室内にいる人ほぼ全員の視線を集めた。


 俺は動揺したまま、藤枝さんを廊下に連れ出した。藤枝さんは申し訳なさそうな顔をやめてくれない。


「……謝らないで?」


 優しく声をかけると、藤枝さんとやっと目が合った。許されている現実が受け入れられないのか、気の抜けた表情は幼い子供のようだ。


「怒って、ないの?」
「俺が怒るなんて、できると思う?」


 意地の悪いことを言ってしまった。首を横に振ってくれてもいいのに、藤枝さんは困ったように俯いた。


 きっと、藤枝さんは本当に優しい人だ。友達を傷つけられて、ついその仕返しをしてしまうくらい、優しい人だ。


 俺みたいな最低な人間が関わっていい人じゃない。


「藤枝さんに言っても仕方ないってわかってるけど、もう女子には近付けないだろうから、言っておくね」


 藤枝さんは不思議そうな目をして俺を見る。


 もう、可愛いとか、好きだとか、思うべきじゃない。


「今後一切、人の気持ちで遊ぶようなことはしないし、女子にも近付かない。迷惑かけてごめんって、言っておいてくれるかな」