我ながら、脱出と侵入は天才的だ。

壁と屋根をよじ登り、私は窓から中へと入る。

時間が止まったように、部屋はもとのままだった。家具も服も、全部、私がいた頃と変わらない。

「隣に、ルナがいるんだよね…」

壁に手をあてる。耳をすましたけど、人の声は聞こえない。あれから、すっかりルナはよく眠れるようになった。今もきっと、この壁の向こうで眠っている。

「ルナ…」

壁をノックする。こんなんで、気づくわけないか。

それにルナの眠りを妨げるのも忍びなかった。第一、私はもうここの住民じゃない。

勝手に出ていって、ワルシャワに行こうとしてる。こんな私に、ルナとかかわる資格なんて、きっとない。

机からカッターを取り出す。せめて壁に、ルナへのメッセージを残そう。

見られるはずないと思うけど、私は音をたてずに掘った。

と、いきなり視界が暗くなる。