一般的にイメージする京の町には似合わない、全国チェーンのファーストフード店は夜でも煌々と明かりがついていて、制服姿の学生が勉強をしていたり、疲れたサラリーマンが食事をしていたりする。

その店内に、いくら京都とはいえ羽織着物の男と、今時の旅行スタイルの女子大生の組み合わせは、傍目にも浮いているだろう。


着物の裾を配慮しながら羽織を払って椅子に座る俺に、

「落ち着きませんか?」

と、ふたつのチープなホットコーヒーを前に琴音が言った。

肯定も否定もせずにいると、

「落ち着きませんよね?」

と琴音はまた繰り返す。




「これが私の気持ちです」


何の比喩なのか考え、思い至る。

軽く明るい店の雰囲気に馴染んだ女子大生の琴音と俺。

俺の「気付き」に小さく笑むと琴音は続ける。


「私、はじめは先生の作品だけだったけど、一緒にいればいるほど先生も大好きになりました」

「うん」

「先生は色んなことを教えてくれるし、経験させてくれるから、会うたびにドキドキして楽しかったです」

「うん、俺もだよ」

「でも、いきなり雇うとか……、考えが付いていけなくなっちゃって、時間が欲しかったんです」

「そうだね、俺も焦り過ぎてた、ごめん」


勢いで作った外堀は深過ぎて二人で転落してしまった。


「連絡も絶って、ひとりで考えて、でも答えがみつからなくて……」

ホットコーヒーの湯気を見ながら琴音はゆっくりと話す。

「でも、昨日から京都に来て、古い町並みの中にいれば先生の作品を思い出すし、着物姿の男性を見れば先生かと目で追っちゃうし……」


顔を上げ、俺を見つめた琴音は観念したように言った。



「私も重症なんです。責任取ってください、先生」

「琴音……!」


ここが明るいファーストフード店の店内でなかったら確実に抱きしめている。

再び心ごと手に入れた琴音は、どんな綺麗な女優よりも、どこの誰よりも、美しくて愛おしい。