情事の後の幸福な気怠さの中、甚八さんは私を腕枕したまま反対の手で私の髪を梳いていた。

「部屋の模様替えをしなくてはならないな」

 甚八さんは突然、ぽつりと言った。

「へ?」
「キングサイズのベッド、気に入ったんだ」
「そうなんですね」
「愛果の部屋と俺の寝室、分ける必要ないだろ?」
「っ!」
「俺の隣で寝ればいい」

 ふっと甚八さんが笑った気がして見上げると、思ったよりも何百倍も優しい顔の甚八さんと目があった。

「俺を選んでくれて、ありがとう」
「う、うん……」

 私は恥ずかしくなって視線を外すと、先ほど甚八さんがつけてくれた左手の薬指に輝く指輪をかざした。キラキラと輝くそれは、私の知らなかった世界を映し出しているようだ。私は緩みきって落ちてしまいそうな頬をきゅっと引き締めた。

「変な顔」

 甚八さんは私の顔を覗き込む。

「変でもいいです。甚八さんの隣に居られるなら」

 甚八さんは「ははっ」と笑うと、私の頭を優しく撫でた。恥ずかしくなって窓の外に顔を向けると、ショッピングモールの屋上が、そして甚八さんの住むレジデンスが見える。
 ここで出会って、散々な目に合わされて、住む世界の違いに泣いたけれど。甚八さんは甚八さんで、やっぱり甚八さんだ。やることは大胆で、振り回されてばかりだけど、それも全部甚八さんだ。

「私、甚八さんと出会えて良かった」

 私がそう呟いた瞬間、甚八さんは私を背中から抱き締めた。私はまた頬がだらしなく緩んでいくのを感じた。でも、もう引き締めなくてもいいやと思った。その先に、私たちの幸せな結婚生活が待っているから。