そんなわけで、今甚八さんが点てたお茶をいただく。もちろん、御茶請けは我が「鶴亀総本家」の練り切り餡だ。こんな形で頂けることになるとは思わなかったが、頂けるのはものすごくありがたい。いつもはものすごく近くに居るのに、ショーケースの中の手が届かない存在……愛しの練り切り。

「こちらのお菓子のテーマは、秋の和。日本人は秋になると色づいた葉を見るため、山々へ向かいます」

 出されたお菓子の説明を、甚八さんが始めた。

「Oh、モミジガリ、ネ!」
「よく御存じで。その、紅葉の葉と、そこに居付いた鹿、そして子供たちのひろいあつめるどんぐり……日本の秋の光景を、一つのお菓子で再現いたしました」
「ニホンのオカシ、ゲイジュツ! タベルノ、モッタイナイネ!」
「食べないともったいないですよ、ゲーンさん」

 私は思わずそう言った。しまった、と思った。超VIP相手に私なんぞが口をきいていいものか……。
 ヒヤッとしたのも束の間、ゲーンさんは「はっはっはっ」と豪快に笑った。

「タシカニソノトオリ。タベナイの、モッタイナイ、ネ。ニホンジン、フシギ!」

 私がほっと安堵の息をつくと、なぜかゲーン夫妻の視線がこちらに注がれた。

「トコロデオジョウサン、コノオカシはナニデデキテイルノ?」
「えっと、こちらは餡子でできております。餡子といっても、小豆で作るものではなくて、白あんにさらに砂糖や練ったイモ等を加えて、まとまりやすくしたものですね。それに色を付け、このように形を作って、日本独特の四季を表現したものを、練り切り餡といいます。今回のように、お茶と一緒に出すことで、抹茶の苦味を引き立て、また風情を感じてもらえたらなぁと思います」