「愛果さん」

 仕事を終え、更衣室から出てくるとそこに将太君が立っていた。

「どうしたの?」
「昼間、泣いてましたよね?」
「え、なんで……」
「目、腫れてました」
「あははー、ばれないように偽装工作したのに……ばれちゃったか」

 将太君は私の隣に並んでゆっくり歩いた。

「愛果さん、大変なことに巻き込まれてるんじゃないかって」
「将太君……」
「前も言いましたけど……俺、愛果さんが悩んでるの見たくないんすよね」

「それは俺のエゴだけれど」と、将太君は付け加えた。

「甚八さんが好きなんっすよね?」
「え?」

 私が将太君を見上げると、彼と目があった。思いがけない質問に、私は動揺してふいっと目をそらした。夕闇に輝く街灯が、すごく眩しかった。

「俺、愛果さんのことずっと見てたから分かるっす」

 将太君はそう続けたから、私は目をそらしたまま続けた。

「でも私、失恋しちゃったんだよね」
「フラれたんすか?」
「そういう訳じゃないけど」
「じゃあ、俺と付き合ってくれますか?」

 将太君がそう言った時、私の視界に入ったのは、あの人の後ろ姿だった。