伊万里様にお茶を出すと、彼は私に視線を向けた。

「愛果さんは、鶴亀総本家で働いているのかね?」
「はい、左様でございます……なぜ、ご存じなのですか?」
「その制服じゃ。懐かしいな。昔はわしもたくさん買ったものだ」
「そうだったんですね。当店の練り切り餡は一級品ですよ?」
「はは、そうだそうだ。だがね、もう食べられないんだ。糖尿でね、甘いものは医者に止められておる」
「そうだったんですか……」

 伊万里様はがっくりと肩を落とすと、私に向かってほほ笑んだ。

「じゃが、愛果さんみたいなべっぴんさんに薦められたら、食わんわけにはいかんな」
「でしたら、さきほど彼女が店から持ってきたものが……」

 陽臣さんの言葉を、私は制した。

「何を言ってるんですか! 伊万里様は甘いものをお医者様に止められているのですよ! お出ししてはなりません!」

 キョトン、とした陽臣さんの目を見て、私はしまった、と思った。さすがに伊万里様に失礼だったか。不安に駆られて伊万里様の方を向くと、彼はニコニコと優しい笑みを浮かべていた。

「はっはっは! 陽臣くん、愛果さんの尻に敷かれているようじゃな」

 そして、伊万里様は思案するように眉尻を下げて、こう言った。

「よし、決めた。陽臣くんの所と手を組もうじゃないか」

 私も陽臣さんもぽかんとしたまま、伊万里様の顔を見つめた。伊万里様だけが、高らかに笑っていた。