香ばしいコーヒーの香りで目が覚めた。

「おはよ」

 目を開けると、コーヒーカップを二つ手に持った甚八さんがいた。

「お前、すごい顔で寝てたな」

 ははっと豪快に笑いながら、甚八さんは私にコーヒーを差し出した。不貞腐れながらも起き上がり、コーヒーを受け取る。彼はまだ部屋着のままで、その事実になぜか胸が高鳴る。

「仕事、行くんだろ。早くしないと遅れるぞ」

 甚八さんはそう言って、壁の時計を指差した。出勤時間まで、あと30分……あと30分!? 突然わたわたし始めた私を面白そうに眺めながら、甚八さんはダイニングテーブルで新聞を読み始めた。

「甚八さんは、お仕事行かないんですか?」
「俺は経営者だからな。めったに店舗には行かない」

 涼しい顔でそう言った甚八さんを見て、なんとなく馬鹿にされたような気分になる。イライラしても仕方ないので、さっさと仕事に行く準備を整えると、私は慌てて職場へ向かうのだった。