「その袋は何だ! ここは高級呉服店なんだぞ」

 甚八さんの低い怒声が壁際に追いやられた私の耳を貫く。

「ご、ごめんなさい! これしかちょうどいい袋がなかったんです!」
「まあいい、そんなこと言っても仕方ないな。で、それを俺に返しに来た……と。俺は男だ」

 その瞬間、彼の視線が私を射抜く。目の前に迫る彼の顔、後ろは壁。なんなの! このシチュエーションは……!?

「は、はい、それは存じております!」
「だから、そんなもん返されても困るんだよ!」
「…………はえ?」

 甚八さんは「はぁ」と溜息をついて、革張りの高そうなソファにドカッと腰を下ろした。

「それはやるよ。報酬のオマケだ」
「受けとれませんよ! オマケが報酬より高くなっちゃうじゃないですか!」
「つべこべ言うな。お前じゃそんな服買えねぇんだから、ありがたくもらっとけばいいじゃないか」
「そういう訳にはいきませんよ……こんな高級なの……もらえない」
「返されたところで俺も困るだろ。そうやってなんでもかんでも受け取ってたら、あの部屋の床の踏み場が本気でなくなっちまう」

 私は彼の部屋を思い返してふふっと笑った。