お風呂から出たゲーンさんの奥さんに浴衣を着せ、私も自分の浴衣を着る。今朝彼の店で受けたレクチャーが功を奏した。教えてもらっておいてよかった………。
 その後、食事も一緒にするものだとばかり思っていたから、早々に離れに戻ったゲーン夫妻に私は驚いた。夕飯は離れでゆっくりとりたいらしい。

「モナカチャンモ、ソウシタイネ!」

 ゲーン夫妻は笑顔でそう言った。おそらく私たちに気を使ってくれたのだろう。別に彼と二人になりたい訳ではないが、素を隠さなくていいのはありがたい。私も早々に甚八さんと離れに戻り、夕食をとることにした。
 部屋に戻るや否や、用意されていたのは華やかな懐石料理。二人前とは思えないそれに目を輝かせていると、隣から笑い声が降ってきた。

「本当、色気より食い気だな、お前」

 もう、誰のせいでこんなことに……という文句は口にしまった。美味しい懐石料理が汚れてしまう気がしたから。

「そんなことよりも、早く食べましょうよ!」

 私がそう言うと、準備を進めてくれた女将さんがフフっと笑った。

 懐石料理に舌鼓、お腹いっぱいになった私はベッドのように敷かれた布団に横になる。

「おい、食べですぐ寝たら豚になるぞ」
「豚でも牛でも何でもいいです……私は、今とても幸せなので」

 はぁ、と溜息をついた甚八さんは「勝手にしろ」と襖をぴしゃりと閉めてしまった。私はそんなことも気にならないくらい微睡んで、そういえば今朝も早かったしなぁ、なんて思いながら、夢の世界に落ちて行った。