「!」

 振り返るとそこに居たのは、長身の和服姿に丸メガネが良く似合う、短髪の男性だった。

「あの、うちの店に何か?」

 開店時間前ということは、ここのテナントの誰かに違いない。ここには世界屈指の名店が集められているから、粗相があってはならない……ということを、私はすっかり忘れていた。
 敵対心むき出しの一言に、彼は「ははっ」と笑った。

「そんなにちっちゃい子供に睨まれたって、怖くもなんともねぇんだけど」
「はぁ? 失礼ね! 私はとっくに成人女性ですけど!」
「まぁ、鶴亀さんが子供を雇うとは思わないけど。……君みたいな子が働いていたら、海外受けはいいだろうねぇ」
「人が気にしていることをよくもまぁ次から次へと……」

 私の怒りのボルテージが沸々と湧き上がる。

「どうせ身長150センチにも満たない私は小学生に見えるかもしれませんが、これでも自分で稼いで一人で生計立ててる立派な独身世代です!」
「そんな堂々と宣言されても。独身、ねぇ………ぷっ!」

 玲那に話すテンションで思わず地雷を踏んでしまった。しまった。

「愛果、こっちは終わったけど………!」

 玲那の声にはっとして振り向くと、彼女は私の向こうの人物の顔をみて目を丸くしていた。

「甚八……お兄様?」