わ、私、甚八さんに抱きしめられてる!?
 なぜそうなったのか分からない状況に、私はただひたすらに顔が熱を上げるのを感じた。着物の下に隠された、彼の分厚い胸板。そして力強い腕の力に、どうしても男性を意識してしまう。おまけになぜかいい匂いがする。鼓動が一気に跳ねあがった。

「おい、大丈夫か?」

 思いの他近くで聞こえたその声に、ふと顔を上げると、心配そうに見つめる瞳と目があった。ドキドキ、ドクドク―――心臓が爆発しそうだ。
 思ったよりも優しい眼差しに、私は頷いた。が、その瞬間彼は私のことをさっと離し、立たせて着物と下駄に目を回した。

「走ったりして破れたらどうするんだ! お前にこの着物弁償するだけの財力があるのか! 下駄だって一級品を履かせてるのに……はぁ」

 甚八さんは深いため息を落とすと、無理やり私の腰を抱き寄せた。

「こうしてないとまともに歩けないなんて、小学生以下だな」

 その一言に怒りのボルテージが最高潮を迎えた。彼の腕を振りほどこうとするも、がっちりととらえられて離れない。
 確かに転びそうになったのは事実だ。悔しいかな私は現実を受け止め、仕方なしに彼に腰を抱かれたまま「加倉」まで戻ったのだった。