結局ホテルのロビーまで、ゲーン夫妻を見送った。

「ベリーヒルズビレッジのホテルからは、先ほど我々がいた日本庭園も見えるんですよ。今の時期は夜通しライトアップされており、紅葉が綺麗に見えますので、ぜひそちらも楽しんでいってくださいね」

 相変わらずニコニコとしたまま、甚八さんがゲーン夫妻に告げた。

「シカハ? シカハイナイノ? ニホンノアキノフゼイ!」
「ははっ。鹿は奈良というところにたくさんいますが、東京には居ないですね……」
「モミジノナカノシカ、ミタイ。ネエ、ジンパチ! アシタ、ナラヘツレテイッテ!」
「ええ、もちろん良いですよ。私が案内いたします」
「カノジョもイッショガイイ! モナカチャン、アシタカンコウ、OK?」
「え?」
「もちろん彼女もご一緒させていただきます。では、また明日。今日はごゆっくり、お休みください」
「オヤスミ、ジンパチ! モナカチャン!」
「お、おやすみなさい……」

 私は呆然としたままそうゲーン夫妻に告げた。ゲーン夫妻はご機嫌な様子で警備員を引き連れてホテルの高層階用エレベーターホールへ去っていった。
 ―――ちょっと待って、今さらっとすごいこと仰いませんでしたか?
 思考が追い付かない。つまりは、私は明日あの大物なのであろうゲーン夫妻と、甚八さんと奈良へ観光しにいく約束をしてしまったのだ。