ここ一年近く病に伏せっているディーンは、コスタ子爵家の財政事情について何も関わっていない。叔父が〝後見人〟という言葉を後ろ盾にコスタ子爵家を食い物にしていることを知らないのだ。

 ──だから私のことも急いで嫁に出そうとしていたのね……。

 先ほどの態度も腑に落ちる。手っ取り早く、金持ちの家の後妻にしてしまえば厄介者を追い出せるだけでなく、そこからも金をせびれるから……。

「駄目よ、ディーン。そんなことをしたら、天国のお父様とお母様も悲しむわ。ディーンはすぐに元気になるから大丈夫よ」
「でも……」
「大丈夫、姉様を信じて。私ね、先日王都に行った際に仕事を見つけたの。とてもよい給金をもらえるのよ。だからディーンが元気になるまでの間くらい、なんとでもなるのよ」

 アイリスはディーンを励ますように笑いかける。
 握った手は、女のアイリスと変わらぬ細さだった。一年にも亘る病気のせいか、十七歳になるのにその腕は細く、心もとない。

 アイリスの目に映るのは、自分と同じ緑色の瞳に琥珀色の髪の、線の細い儚げな少年だった。