返事をすると同時に、鞄から本を出した。

いかにもミステリといった暗い坂の描かれている表紙だ。ずっと前から目をつけていた新作だった。

本は好きだ。
音も関係ないし、本の中なら誰にでもなれる。その中でもミステリが好きだ。
謎を解き、早く次のページを捲りたくなるあのドキドキ感が。


“怖そうな本だわ。サラさんが前読んでいた本と同じ人が書いたのね。 ”

“そうです。覚えててくださったんですね。 ”


里帆先生はいつもこんな感じだ。私が読んでた本や会話が大体覚えてくれている。それが、私も少し嬉しい。


“ ええ。じゃあ読書、楽しんで頂戴ね。勉強も分からないところがあったら遠慮なく聞いてね?”

“分かりました。ありがとうございます ”


返事すると、先生はホワイトボードを片付けて、机に向かった。書類をまとめてるみたいだ。
先生も大変だろうに、私に気をかけてくれているのがお母さんとよく似ている。

そんな事を考えながら、本の世界に飲み込まれて行った。