でもハギくんはわたしのまえから動かない。

あまつさえ挑戦的な瞳をこちらに向けてくる。




「へえーそんなことするんだ」

「なっ、なにですか」



なに、と、なんですか、がまざってヘンな言葉になった。

ハギくんの前じゃろくな日本語もつかえなくなる。



「これをほかの人になすりつけるとか。ヤオもまあまあ酷だね」



ハギくんがこんなことさえ言わなければ、わたしの良心が痛むこともなかったのに。




「面倒事を押しつけるなんてなぁ」



本当にいやなところを突いてくる。


ハギくんは人の心を掌握するのが得意だ。

わたしがこういう心理戦に弱いことも知っててずぶずぶと刺してくるから、たまったものじゃない。


事のなりゆきをはらはらしたようすで見守っていた山川くんに声をかける。



「……山川くん」

「お、おう」


「ごめんね。あとはわたしがやるから大丈夫だよ」



振り返ればしたり顔のハギくんがいるんだろうけど、絶対に振り返ってあげない。