昨日の夜、母さんに言われたことが頭をよぎった。


『ギューしてチューしてハッピーしちゃいなさい』


…無理だろ。


そんなにトントン拍子でいけるモンじゃない。


「じゃあ、家でね」


気がつくと駅に着いていた。


学校では同居は秘密のため、駅から俺たちは全くの他人となる。


本当はずっと麻衣と一緒にいて俺のものって見せつけてやりたい。


…でも麻衣は俺のじゃない。


長いこと一緒にいると、なかなか好きとか言えないものだ。


「じゃあ、な」


改札に向け走っていく麻衣を見て、俺も歩き出した。


「よっ!!」


突如背中を押され、前によろめく。


「……やめろよ」


立っていたのは友達の悠介。


「今日は早いな、奏太」


そりゃあ麻衣が早起きしたから。


なんて言えない。


麻衣は親友には同居のことを話しているらしいが、俺は誰にも言ってないから。