「いってらっしゃい」


今日は珍しく麻衣が遅刻せずに起きた。


2週間といえど母さんたちがいないのが少なからず寂しいんだろう。


「麻衣ちゃん、奏太をよろしくね」

「まかせて!」


時間があったからかポニーテールにされた茶色のサラサラの髪が揺れるたび、ドキンと心臓が跳ねる。


「2週間、お留守番承りました!いってきます」


学校が終わって帰ってきたらふたりきりだ。


最初こそ動揺して自分が保てるか心配だったが、麻衣は俺の気持ちに全然気付いてない。


それに生まれた頃から一緒に住んでるんだ、大丈夫だろう…。


「やっぱり寂しいね…」


駅までの道中、麻衣がそうつぶやいた。


ショボンと肩を落として歩いているのが子犬みたいで可愛い。


「今日の晩飯、ハンバーグ作ってやるから」


麻衣の頭に片手をのせて、「な?」と顔をのぞきこむ。


「ほんと!?」


ハンバーグにつられて嬉しそうな声で麻衣が顔を上げると、至近距離で鼻と鼻がぶつかりそうになった。


「………っ」


慌てて前をむく。


俺の顔は情けなく赤くなっているに違いない。


「久しぶりだなー、奏太のハンバーグ!」


本人は1ミリも気にしてない様子で、さっきの落ち込みは嘘だったようにルンルンと歩き出した。


…はぁ。


意識されてないにも程がある。